アニてぃくる

株式会社アニぴたるの公式ブログです

【獣医師執筆】夜間救急で運び込まれてくるワンちゃんの症状Top5

“夜間救急動物病院”

そこは日中に営業している動物病院の診察終了後、夜の時間帯から診察が始まる場所。動物達の急な体調不良は24時間いつでも起こり得るため、夜間救急動物病院にはかかりつけ医が開く日中まで待てない様々な症状の動物達が来院します。

そこで今回は、筆者が院長を務める往診・夜間救急動物病院「麻布ペットクリニック」に運び込まれてくるワンちゃんにクローズアップ。夜間救急で運び込まれてくるワンちゃんの症状Top5をまとめてみました!

第5位「痙攣発作」

第5位「痙攣発作」

脳から送る指令のコントロールが一時的に制御できなくなると、全身もしくは身体の一部が震えたり、固まったり、ときには意識が無くなることもあります。

痙攣発作を起こすと、同時に失禁脱糞流涎などの症状が観察される事例もしばしばあり、瞳孔が散大していることが多いため、初めて痙攣発作の症状を起こした際には非常に驚いた・焦った状態で来院される飼い主様も多くいらっしゃいます。

ところが、中には不整脈などから起こる失神症状や、急な血圧低下による脱力などと混同するケースも多く、来院時にワンちゃんの症状について細かくヒアリングが必要な場合もありますので、痙攣発作が起きた際には症状の動画を撮影していくと診断に役立つことが多いです。

痙攣発作症状は1分未満で止まることが比較的多いですが、ときには30分近く続く痙攣重責と呼ばれる状態に陥るケースもあります。その際は命の危険も伴うこともあり、投薬治療が必要となりますので、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。

しかし、痙攣発作の原因は非常に多く、場合によっては血液検査や各種画像検査なども必要になるケースもありますので、適宜状態を見極めることが重要です。痙攣発作が起きた際は、なるべく焦らずに近くの動物病院へ連れていきましょう。

ちなみに筆者の経験上、痙攣発作が起きる原因は、高齢のワンちゃんは脳腫瘍などの頭蓋内疾患が比較的多く、若齢のワンちゃんは栄養失調による低血糖や電解質バランスの乱れが多い印象です。

第4位「呼吸悪化」

第4位「呼吸悪化」

呼吸悪化とは、鼻から喉および気管での上部気道や気管支、肺や心臓までの下部気道において何かしらの障害を伴い、身体の中にうまく酸素を取り込めないこと。呼吸悪化が起こると様々な症状を引き起こす恐れがあります。そのため呼吸悪化が認められる場合は早急な処置や検査、治療が必要となります。

動物病院では、まず身体検査上で舌の色を見て、チアノーゼ(皮膚・粘膜が青紫色に変化すること)の有無と、同時に見える範囲で喉をチェックし、“閉塞物が気道を窒息させていないか”や“喉の炎症”なども確認します。

ワンちゃんに過度なストレスをかけてしまうと容体の急変を引き起こしてしまうため、獣医師は状態を見究めながら処置を行っていきます。状態によっては必要に応じて酸素吸入を行うこともあります。

続いて、聴診にて心音および肺音に異常音が聴取できるかを確認します。心臓病を患っているワンちゃんは心雑音が、肺炎や肺水腫(肺に水が貯まる症状)を患っているワンちゃんの場合は肺音にて異常音が聴取されることが多いです。その後レントゲン検査や超音波検査を行い、考えられる診断候補を挙げていき、投薬治療を行います。

呼吸悪化を起こすワンちゃんは、入院治療が必要となる場合も比較的多いため、当院では予想されうるリスクや退院までの道筋をなるべく具体的に伝えると共に、亡くなるリスクもしっかりと飼い主様へインフォームをするようにしています。

第3位「跛行(歩き方がおかしい・びっこ引いているetc)」

第3位「跛行(歩き方がおかしい・びっこ引いているetc)」

跛行(はこう)とは、歩行に異常をきたしている状態のこと。当院の場合“愛犬の歩き方がおかしい”、“片足をびっこ引いている”、“片足を挙げたまま”などといった主訴で来院される飼い主様が多いです。

跛行の原因として最も多いのは、“高いところからの落下やジャンプした拍子の着地ミス”です。その他にも、滑りやすい床での転倒や交通事故など原因は様々。中には散歩中に突然症状を引き起こすケースもあります。

跛行を起こしている場合、動物病院ではまず意識レベルの確認を行います。その理由は、高所落下や交通事故では脳に強い衝撃などを受けていることが考えられるためです。意識レベルや脳神経学検査、必要に応じて超音波検査で胸水や腹水貯留(胸部・腹部に体液が溜まること)の有無も確認します。

この辺りは、診察をスムーズに進めるためにも飼い主様自身で“普段の様子と比べて変化があるかどうか”“お腹の張り具合”などをあらかじめ確認の上、獣医師に電話で伝えておくとよいでしょう。

意識レベルが正常であれば、次に身体検査を行い、痛がっている箇所だけでなく手足の先端から体幹部の関節まで可動域や痛みの有無を確認していきます。痛みが激しい場合は、必要に応じてエリザベスカラーを装着することもあります。

診察室内では、“四肢全てにおいて接地出来ているか”や“負重はかけられているか”など歩行の状態を確認したのち、レントゲン検査にて骨折の有無や、関節および筋肉などの軟部組織のチェックを行います。

骨折している場合、必要に応じて緊急的に包帯固定や鎮痛処置を行い、翌日以降骨折部に応じて追加の検査や手術が必要となるケースもあります。

ちなみに、当院ではトイプードルやチワワなどといった小型犬の骨折症例が多く、橈尺骨(とうしゃくこつ=前足を構成する前腕部)骨折が比較的多く見受けられます。

第2位「下痢および嘔吐症状」

第2位「下痢および嘔吐症状」

日中の動物病院同様に、夜間救急動物病院には下痢や嘔吐などの消化器症状を起こし、来院するワンちゃんも多いです。中には命に関わるケースもあるため、原因を突き止めるもしくは除外することが重要となります。

特に普段から下痢症状や嘔吐症状を起こしていないワンちゃんが症状を起こしているときは注意が必要です。また、短時間で何度も嘔吐をする場合や、下痢症状および踏ん張る様子を見せている場合もなるべく早急な受診を必要としているサインです。

下痢や嘔吐の原因の中でも、命に係わる病気として挙げられるのは腸閉塞です。ワンちゃんの十二指腸や小腸は人間よりも細く、身体のサイズが小さくなるに従ってより細くなります。飲みこんだ物が腸に詰まってしまうと腸閉塞になる恐れがあるため、大きい物や紐状の物の誤食には気を付けましょう。

動物病院に運び込まれた際には、まず誤食の有無を確認の上、血液検査やレントゲン検査および超音波検査によって腸閉塞の有無を確認します。もし腸閉塞だった場合、詰まっている部分の周辺の血流が途絶えてしまうと腸が壊死してしまうため、なるべく早い段階での緊急開腹手術を行う場合も多いです。もし手術が遅れてしまうと、その分切除する腸の長さが長くなっていきます。

緊急手術の場合は時に数十万円という経済的な負担も伴いますが、手術をしなければ命の危険が伴う状態であることを覚えておきましょう。腸閉塞を予防するには、まず誤飲・誤食させないことが重要なポイントとなります。

また、腸閉塞の他に、短時間の内に何回も嘔吐や下痢を繰り返している場合には要注意。嘔吐や下痢を短時間に何回も行うと、身体の電解質(ナトリウムやカリウム)バランスが崩れ、時に意識レベルの低下などを引き起こし入院での静脈点滴治療が必要となるケースもあります。

第1位「誤食・誤飲」

1位「誤食・誤飲」

夜間救急で運び込まれてくるワンちゃんの症状で一番多いのは、誤飲・誤食です。おもちゃ、ひも、ペットシーツ、中毒性物質など様々な物を食べてしまったという理由で、多くの飼い様が来院されます。

前項にて“誤飲や誤食によって腸閉塞が起こり、命の危険が伴う”と解説しましたが、腸閉塞以外にも命に関わる危険な状態が引き起こる場合もあります。

1つ目は、中毒です。化学物質や薬の大量誤飲、野菜や果物などの成分は中毒を引き起こし、ときに命の危険が伴います。例えば、タバコの大量誤飲やキシリトールガムの大量誤食で命を落とすケースも比較的多く見られますし、殺虫剤や人の抗不安薬や解熱鎮痛薬によって致死的な状態になることもしばしば経験してきました。

まずはワンちゃんに危険な物を理解すると共に、近くに置かないことで、誤飲や誤食を予防していきましょう。

2つ目は、喉や気道に詰まる可能性のある大きい物の誤飲です。骨ガムの丸飲みや、ボールなどのおもちゃの誤飲によって喉や気道が塞がれてしまい、窒息状態となってしまいます。人間でもお正月に餅を喉に詰まらせて命を落としてしまうニュースを見ることもしばしばありますが、その事例と同じです。

窒息状態に陥った場合は1時間以内に処置を行わなければ命を落としてしまうケースも多いため注意しましょう。ワンちゃんの命を守るためにも、飲み込む可能性のある大きい物は目の前に置かないことをオススメします。

誤飲や誤食してしまった場合、比較的ワンちゃんが落ち着いている状態でもし吐かせられるようであれば催吐処置(誤食・誤飲した異物を吐かせる処置)を行います。ちなみに、催吐処置の適応となるのは誤食・誤飲してから約3時間以内です。それ以上経過していると催吐処置の適応範囲にならないため、毒素吸着剤などを必要に応じて用いています。

また、誤飲や誤食してしまった物を全て吐かせてしまえばよいという訳ではなく、催吐処置不可の物もあります。例えば、などの鋭利な物は吐かせることで食道などを傷つけるリスクがあるため、適していません。電池洗剤などの化学薬品も催吐処置不適応となります。

上記のような場合には、全身麻酔下で内視鏡にて摘出を行います。

催吐処置は従来、食塩水を飲ませるといった方法を行なっていることもあったようですが、血液中のナトリウム濃度の上昇により、意識混濁になるリスクもあり、現在は推奨されていません。 動物病院では注射薬にて催吐を行いますが、近年副作用なども報告されていますので、獣医師の説明をよく聞いた上で行いましょう。

ワンちゃんの健康のために、いまできること

ワンちゃんの健康のために、いまできること

今回は、当院に夜間救急で運び込まれてくることの多いワンちゃんの症状Top5をご紹介しました。

記事内でも解説したように、症状によってはすぐに検査・治療が必要となる場合もあります。ワンちゃんの健康のためにも日頃から体調管理には気を付け、いざというとき迅速に行動できるよう基礎的な知識と対処法を身につけておきましょう!

<校正・編集> アニてぃくる編集部