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【獣医師執筆】第2回:漢方薬とは|ペットへの東洋医学とは?

連載第1回目の「【獣医師執筆】第1回:初めてさんのペットの東洋医学|ペットへの東洋医学とは?」では東洋医学の説明や治療の方法、動物病院を受診する際の注意点などをお伝えしました。連載第2回目となる今回は、東洋医学で主に治療に用いられる「漢方薬」についての説明や、獣医師目線からのペットへの与え方についてのアドバイス、西洋薬との違いをお伝えしていきたいと思います。

漢方薬とは

漢方薬とは

漢方薬とは、古代中国で発祥した薬です。日本でいえば弥生時代の頃、中国の医師が書いた書物が基となっています。その後も「このような病気の、このような体質の患者さんにこのような薬を使ったら良くなったよ」というような実際に薬を処方した症例の膨大なデータを何千年もかけて蓄積してできたもので、先人の経験を積み上げたものをもとに作られた薬と言えるでしょう。それらを基本として現在も新しい漢方薬ができたり、個々の医師や獣医師がそれにアレンジを加えて新しい処方を生み出したりしています。

漢方薬の材料とは

漢方薬とは

漢方薬は生薬と呼ばれる植物、鉱物、動物、昆虫など様々な物から構成された薬材です。少ないものでも2種類、多いものだと10種類以上の生薬が入っています。

薬のタイプは代表的なものとして、次のものが挙げられます。

湯剤…薬材をまとめて煮詰めたり抽出したりしたもの
散剤…乾燥させた薬剤を粉末にしたもの
錠剤…薬剤の粉末を固めて粉にしたもの
沖服剤(エキス顆粒)…薬の煎じ液を濃縮したものにデンプンなどを混合し、顆粒状にしたもの
膏剤…薬物の汁を軟膏などと混ぜたもの

この中で動物によく使うのは、錠剤エキス顆粒です。実際に与える時には錠剤が飲ませやすいですが、全ての漢方薬が錠剤で発売されているわけではないので、エキス顆粒も使用することが多いです。

「ペットは漢方薬が苦手」は本当?

「ペットは漢方薬が苦手」は本当?

ところで皆さん、漢方薬はペットに飲ませるのが大変と思っていませんか?ご自分が服用されたときに、漢方薬は苦いし量が多くて飲むのが苦痛だという経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。けれど、実は動物にとってはそうでもないかもしれません。

例えば「消風散(ショウフウサン)」という漢方薬があります。13種類の薬剤が含まれており、その中の11種類はマメ科やセリ科などの植物です。このように漢方薬は多くの種類の植物で構成されていることが多いのですが、犬は散歩に行くとよく雑草を食べたりしますよね。ウサギやハムスターも草食動物です。犬猫の歯みがきペーストにフレッシュリーフフレーバーというものもあります。意外に思われるかもしれませんが、動物にとって植物の苦みはそんなに嫌なものではないのです。

また消風散の場合、もう1つ犬の大好きなものが入っています。蝉退(センタイ)という生薬ですが、なんとセミの抜け殻なのです。犬は散歩中にセミの抜け殻を見つけるとバリバリ食べてしまったりしますよね。飼い主が「動物は漢方薬が苦くて飲めないのではないか」という先入観を持ったままご自分のペットに薬を飲ませようとすると、その不安感がペットにも伝わってしまい、用心して飲まなくなってしまいます。「そんなにまずくないよ」とニコニコしながら飲ませてあげたら、案外とすんなり飲んでくれるかもしれません。

オススメの漢方薬の飲ませ方

オススメの漢方薬の飲ませ方

実際のペットへの漢方薬の飲ませ方です。まず、フードにそのまま乗せてみましょう。案外そのまま食べてくれるということも多いです。

この方法がダメな場合、香りの強い食材でくるむ方法を試してみましょう。猫ちゃんの場合、キャットフードの中に入っている魚の血合いの部分にくるんで与えるのがおすすめです。ワンちゃんにはレバーなどでくるむのが良いでしょう。ウサギの場合は大葉に顆粒の薬や潰した錠剤を乗せ、くるくる巻いて筒状にしてあげるのもおすすめです。

また別の方法としては、動物病院であらかじめ甘めの液体に薬を溶いてもらう方法もあります。これはウサギやハムスターなど、そもそも口が小さくて物理的に錠剤が呑み込めない動物に処方する際に用います。注射器やスポイドで薬液を吸い、直接口から投与します。口元に注射器などが触れるため1回目は嫌がりますが、頑張って飲ませましょう。2回目からは甘い味がするとわかっているので、寄ってきてくれる動物もいるほどです。

それでも飲んでくれない子に使用できるのが、最近発売されている直接塗ったり垂らしたりするタイプの漢方薬です。この漢方薬の使い方は薬を皮膚や耳に塗り経皮的に成分を吸収させるだけ。食べさせる必要はなく、ペットの身体に塗るだけなので投与しやすいです。また、食欲がなく口から飲ませるのが大変なときなどにも良いと思います。ただ、まだあまり対応する漢方薬の種類が多くないのが残念ではありますが、その子の症状に合うものがあれば塗布するタイプを使用するのも良いでしょう。

漢方薬と西洋薬の違い

漢方薬と西洋薬の違い

西洋薬は単一の成分で作られていて、特定の症状にピンポイントに効くものです。例えば下痢の症状があった場合、便を固めるための薬、腸の動きを整える薬、腸の炎症を抑える薬といったように、それぞれの症状に合った薬を1種類ずつ使用します。効果も比較的早くあらわれます。

それに対し漢方薬は数種類の生薬で構成されており、1つの漢方薬の中に様々な効果を持つ薬が入っています。西洋薬であれば何種類もの薬を飲まなくてはならないところが一種類の漢方薬で済んでしまうという場合も多いです。

また、漢方薬は今出ている症状の他にその動物の体質も考慮し処方しますので、冷え性の場合は温める生薬、熱がりの場合は冷やす生薬、高齢の場合は体力を整える生薬など、症状を自分自身の力で治せるように体調を整えていく成分も入っています。例えば高齢になってきて以前より元気がない、寒そうにしている、食欲が減ってきたなど、特に病名はつかないけれど、老化により弱ってきているというような症状の時に、西洋薬では対応するような薬がなくても漢方薬であればピッタリの薬があるかもしれません。

もう1つ、漢方薬と西洋薬との大きな違いは、病気にならないよう予防的な使用ができるということです。一般的に、西洋薬は決められた量を服用しなければ効果はでません。しかし漢方薬は多く服用すれば治療、少なめに服用すれば病気予防というように量によって使い分けができるのです。このように量を加減しながら長期的に服用し、病気にならない体づくりをすることができます。

西洋薬と漢方薬の使い分けは、効果を早く出したい緊急の症状の時には西洋薬、じっくりと体質から改善したい場合は漢方薬を使用するとよいでしょう。もちろん、両方をうまく組み合わせていくことも可能です。

ただし、漢方薬を与える際にも注意は必要です。身体に優しいイメージの漢方薬ですが、間違ったものを飲めば下痢や痒み、発熱などの望ましくない症状が出ることもあります。一緒に飲むと毒性があり副反応が出やすくなる組み合わせもあるので、気をつけなければなりません。自己判断で薬局で漢方薬を買ってペットに与えるのではなく、必ず獣医師の診察を受けてから服用させるようにしてください。

<校正・編集> アニてぃくる編集部・セシル