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【獣医師執筆】第3回:漢方薬とペットの病気|ペットへの東洋医学とは?

「ペットの東洋医学とは」シリーズ「【獣医師執筆】第2回:漢方薬のいろは|ペットへの東洋医学とは?」では、漢方薬についての説明や、獣医師目線からのペットへの与え方についてのアドバイス、西洋薬との違いを解説しました。

記事を読んで、漢方薬をご自分のペットに試してみようと思われましたか?しかし「実際どんな病気に効果があるのだろう?」と、さらに疑問が生まれてしまったかもしれません。

そこで、第3回では実際にペットの病気の例を挙げて説明します。

下痢はまず「寒熱(かんねつ)」を診る

猫の下痢の診察

一つ目は下痢です。ペットの排泄のお世話は飼い主さんがしますので、下痢をしていると家の中や身体が汚れ、ご苦労が多いと思います。

西洋医学では、「細菌やウイルス感染ではないか」「腸の炎症がないか」「消化器官の機能が落ちていないか」などさまざまな検査を行うのが一般的です。そして、検査結果に合ったピンポイントの薬を処方します。たとえ体が冷えて下痢をしていても、西洋医学では体を温める薬は処方されません。

しかし東洋医学の場合は、アプローチが少し違うのです。

東洋医学では、下痢が「身体の冷えによるものか」「食べ過ぎなどで熱くなってしまったからか」など「寒熱」を診ます。「寒いときに下痢をするのは当たり前」と思われる方も多いかもしれませんが、東洋医学では体を温める薬を処方するのです。

また、下痢には湿気も大きく関係します。そのため、東洋医学では、下痢をしたときは「湿気の多い時期なのか」「ベタつくものを食べたのか」「身体の中で湿気が生まれたのか」などを探るのです。

ちょっと難しい用語ですが「肝乗脾(かんじょうひ)」という、他の臓器の影響もあります。つまり、他の臓器の不調が消化器系の臓器に「乗っかって」影響を及ぼすため、下痢を生じるのです。これは、他の臓器そのものが不調だったり、精神的に怒りの感情があったりなど理由はさまざま。

ペットたちにも、悩みや不安があります。悩みすぎても「気の滞り」が起きて消化器に不調をきたします。健康な状態が保たれるのは、何事も詰まらずに、サラサラと流れること。東洋医学では、下痢に限らず、いろいろな不調は「気滞(きたい)」と言われる気の滞りによって生まれると考えられています

それらの状態に合わせて、消化器を温めて気を補って流れを良くする漢方や、熱を冷ます漢方が処方されます。

皮膚病は「湿熱(しつねつ)」を診る

犬の皮膚病診察

二つ目は皮膚病です。西洋医学では「細菌やカビ、寄生虫などの感染はないか」「食物や花粉などのアレルギーの有無」「ホルモン分泌の異常の有無」などを検査し、問題点についての薬が処方されます。

東洋医学が診るのは「湿熱」です。「湿っていて熱を持っているか」「乾燥して冷えているのか、熱いのか」など、皮膚そのものや身体全体の乾燥状態などを診ます。

「血(けつ)」といって、「身体に栄養を運ぶもの(西洋医学の血液とほぼ一緒と考えてよいでしょう)」の過不足や有無も重要です。

例えば、血が足りない状態の「血虚(けっきょ)」では、皮膚が薄くなったり脱毛が起こったります。皮膚が象のように厚くなってしまうのは、血が滞る「瘀血(おけつ)」という状態です。

「血熱(けつねつ)」といって血に熱が入ってしまった状態になると、なかなか炎症が治まりません。それらの状態に合わせて熱を取って血を流したり、皮膚に潤いを与えて血を補充したりする漢方が処方されます

運動器官の不調は「気滞(きたい)」と「腎虚(じんきょ)」

猫の運動器官不調を診察

三つ目は、椎間板ヘルニアのような運動器官の不調です。西洋医学では、「神経が通っているか」「歩行の様子はどうか」などを診察します。そして、関節や骨の変形などの身体検査やX線、MRI、CTなどの画像診断など詳しい検査も行います。その結果により、投薬や手術などを決定するのです。

東洋医学では、運動器官の不調は気の滞りである「気滞」が重要であると考えられています。その原因として考えられるのは、「気が足りない」「冷えているから滞っている」「血が足りない」などです。

「腎虚」も不調の大きな原因です。生き物は、生まれたときから「腎精(じんせい)」というエネルギーの元を持っています。そこに食べ物などで栄養を摂り、腎精を蓄えているのです。しかし、腎精は老化や闘病によって減少していきます。

気や血の状態に合わせて、下半身の気滞を解消したり、原因となる瘀血を取り除いたりします。腎虚に処方するのは、腎精を補う漢方薬「補腎(ほじん)」です

臓器と臓器は影響し合う

ペットに合った漢方薬を処方

ここまで読んで「どの病気でも同じことを言っている」と皆さん気づかれたのではないでしょうか。その通りなのです。東洋医学では、ひとつの臓器や器官の不調が別の臓器や器官に影響を及ぼすと考えます。そのため、大元の問題の解決によって複数の病気が治癒する場合もあるのです。

下痢のワンちゃんと皮膚病のワンちゃんが待合室に出てきたら、まったく同じ漢方薬を処方されていることなどもよくあります。また、同じ症状に見える子でも体質や体格、住んでいる環境や季節によって違う処方になるときもあるのです。そこが西洋医学と東洋医学の大きな違いであると言ってよいでしょう。

ここには書ききれませんでしたが、紹介した事例のほかに、さまざまな病気そのものに対応する漢方薬もあります。ちなみに保険薬と呼ばれる、人間の健康保険が適応される漢方薬だけでも100種類以上もあるのです。もちろん全てが万能ではなく、西洋医学のお薬を使用した方がよい場合もあります。

自分で適当に与えるのではなく、実際に獣医師の診察を受けて、ご自分のペットの状態に合う漢方薬を選んでもらうことが大切です。

<校正・編集> アニてぃくる編集部・セシル