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【獣医師執筆】第4回:ペットの鍼灸治療|ペットへの東洋医学とは?

「ペットの東洋医学とは」シリーズ「【獣医師執筆】第3回:漢方薬とペットの病気|ペットへの東洋医学とは?」では、実際にどのような病気で漢方薬が用いられ効果を発揮しているのかを解説しました。

ペットを飼う皆さんが数ある東洋医学の中でも漢方薬以外に興味があるとすれば「鍼灸治療」ではないかと思いますので、今回は鍼灸治療について詳しく解説していきます。

鍼灸治療の歴史

鍼灸治療は、約2000年前の中国北方が発祥だと言われています。

寒い地域なので草木などが育たず、漢方薬が作りにくかった当時の中国北方。
それに加え、衣服を脱いでの全身の治療も防寒の意味から受け入れられなかったのだそうですよ。

そんな時に、手首や足首周りをとがった石や骨片などで刺激したり皮膚に熱を加えたりしていたのが「鍼灸治療」の始まりだと言われているのです。
中でも、刺激に対して特に敏感だったり反応があったりした点をいわゆる「ツボ」として治療に用いていったと考えられます。

「経穴」と「経絡」の仕組み

1つ1つのツボは「経穴」といい、それがまた「経絡」という一本の線でつながっています。
わかりやすく例えると、経穴が「駅」で経絡が「線路」のようなものです。

経絡には主要な脈が14本もあり、途中で交差したり一つの経絡が指の外側で終わっていたり、同じ指の内側からまた違う経絡が始まっていたりもするのです。

そのようにして、すべての経絡は綿密につながっています

一見、離れていて関係がないようなところ同士が経路でつながっていることもあるため、例えば前足の先に鍼を刺すと歯の痛みを和らげたり、後ろ足に鍼を刺すと下痢に効果があったりと遠隔の場所の治療ができるわけなのです。

経穴の数はWHOが定めており約360箇所もあり、動物の場合はほとんど人間と一緒とされています。
しかし、動物と人間では骨の本数や角度など異なる点も多いですよね。
そのため、「何番目の骨の横」などと決められている経穴の場合は人間と動物では位置が異なる場合もありますし、「動物独自の経穴」というのも存在するのです。

動物も安心できる痛みの少ない鍼

では、動物に対する鍼灸治療にはどのような鍼を用いるのでしょうか。

犬、猫、ウサギなどの治療では直径0.12〜0.2mmぐらいの鍼を刺すことが多いです。
普段の予防注射に用いる注射針や人間用の鍼灸に使用する鍼が大体0.5〜0.8mmぐらいですから、それよりもずっと細い鍼ということになりますね。
鍼が細い分、痛みも少なくて済むのです。

鍼の材質は丈夫なステンレスで、一度使った鍼は廃棄してしまうので清潔です。

動物への鍼灸治療の手順

次に、鍼を刺す手順について詳しく解説します。

まずは、連載第1回目でもご紹介した「四診」という東洋医学的な舌や脈を診るような診察をします。
その後、鍼を刺す場所をマッサージするように優しく触っていくのですが、これは何が目的なのかというと「経穴の張りや反応を見るため」です。
実際にマッサージや別の手技を施す場合もありますが、これはその時の動物の症状や獣医師によって異なります。

経穴の針や反応の確認が済んだら、いよいよ鍼の出番です。
まず、鍼を刺す場所を消毒して、ゆっくりと一本ずつ刺していくのですが経穴の場所や作用に合わせてまっすぐ刺したり斜めに刺したりします
鍼を刺す本数は、多いと20本近くにもなりますが症状や性格に合わせて決めていくので、毎回たくさん刺すわけではありません。

鍼を刺しているときに、動物がビクッと動いたり急に振り向いたりすることがあります。
飼い主さんは驚いてしまうかもしれませんが、これは「得気(とっき)」といって鍼がきちんと治療の効果がある場所に達したという合図なので安心してくださいね
敏感な子だとその反応が強く出ることがありますが、すぐにおさまりますので心配しなくても大丈夫ですよ。

その後、「置鍼(ちしん)」と言って10〜30分ぐらい鍼を刺したままにしておきます。
この置鍼の間は、動物を立たせたままにすることもありますし、ハンモックのようなところに足を入れて浮かせていたり、クッションのような台に乗せたりと体勢は様々です。

時間が経過したら鍼を1本1本丁寧に抜いていきます。
この時に、親切な飼い主さんが一緒に抜いてくれようとすることがあります。
大変ありがたいのですが、実は抜き方にもコツや意味があるので獣医師の指示がない場合は触らないでくださいね

鍼灸治療を行う頻度や間隔

動物に鍼灸治療を行う頻度や間隔は症状によっても異なります。
毎日行う場合もありますし、週1回や月1回の場合もあるので一概には言えません
担当する獣医師の指示に従ってくださいね。

また、同じ病気で通院している同じ子でも、その時の東洋医学的診断により鍼を刺す場所が日々異なってくることもあるのです。
毎回、違う場所に刺されても「前と違うけど大丈夫なの?」と驚かないでください。

「気」の滞りを通すことが鍼灸の狙い

東洋医学では、体の中の機能を正常に保つための「気」と呼ばれるエネルギー物質が絶えず流れていると考えられています。

「気」は経絡を通って体のあらゆるところを絶えずめぐっていますが、この気の流れが滞ると様々な病気や不調が起こるとされています。
その滞りを鍼を刺すことによって通すのが鍼灸治療の主な効果と狙いなのです。

先ほどわかりやすく電車の線路に例えた「経絡」は、経穴のある皮膚の表面だけでなく、身体の奥の内臓にも通っています。
そのため、内臓の不調が体表の経穴にしこりや張りとして表れてくるのです。
だから、その経穴に鍼を刺すとその内臓の不調さえも治すことができるというわけなんですね。

また、東洋医学だけではなくて、いわゆる「現代医学」と言われている西洋医学でも、鍼を刺すことによって周辺の血流が良くなったり痛みを軽減するような物質の分泌を促進したりすると言われています。

鍼灸治療を行う前に知っていてほしいこと

鍼灸治療について解説してきて、身近に感じていただけた飼い主さんもいらっしゃるかと思います。
最後に、鍼灸を受ける前に知っておいてほしいことについてお話しますね。

まず、動物の鍼灸治療を行えるのは、動物の鍼灸を学んだ獣医師のみです
人間の鍼灸師(あんま指圧マッサージ師、はり師、きゅう師)とは異なるのでご注意ください。

そして、何かと高額になりがちな動物病院での治療費ですが、鍼灸治療も一部のものを除き、ほとんどのペット保険の対象となります
保険に加入されているほうがより手軽に治療を受けられるかと思いますので、検討してみるのも良いかもしれません。

次回は、鍼灸治療が実際にどのような症状に効いていくのかを詳しく解説したいと思います。

<校正・編集> アニてぃくる編集部・松永由美