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【獣医師執筆】第5回:椎間板ヘルニア治療|ペットへの東洋医学とは?

「ペットの東洋医学とは」シリーズ「【獣医師執筆】第4回:ペットの鍼灸治療|ペットへの東洋医学とは?」では、ペットへの鍼灸治療の流れを詳しく解説しました。

では、具体的に鍼治療はどんな疾患に効果があるのでしょうか。今回は鍼治療を用いる病気の中でも代表的な「椎間板ヘルニア」での鍼灸治療について詳しくお話していきます。

動物の椎間板ヘルニア

「椎間板」とは首から腰にかけての背骨と背骨の間にあり、背骨を連結するクッションのような役割をしています。
その椎間板が変形したり衝撃を受けたり、加齢などの理由で脱出してしまったりして神経を圧迫した状態を「椎間板ヘルニア」と呼ぶのです

椎間板ヘルニアになると、手足の麻痺によりうまく歩けなくなって後肢を引きずる、首や腰に痛みが出るなどの症状が表れます。
また、尿や便が出にくかったり、反対に止められなくなったりするなど、排泄を自分の意志でコントロールできなくなることもあります。

椎間板ヘルニアへの治療として一般的なのは、注射や内服薬で炎症を抑えたり、神経の圧迫を取るために背骨の一部を除去する手術をしたりというものですが、最近では治療の選択肢の一つとして鍼灸治療が注目されるようになってきました。

東洋医学から見た椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアは東洋医学では、風・湿(湿気)・寒(寒さ)といった自然界に存在するものが「邪気(じゃき)」という悪い性質のものとなって、ツボのある経絡の流れを阻害することで痛みや麻痺が起きると考えられています。
また、この邪気はストレスを感じやすくしたり肝の調子を悪くしたり、消化不良を起こしたりするなど、身体の内面から症状を出してくることもあります。

それに加え、この病気を引き起こす大きな要因が「腎虚(じんきょ)」です。
腎には「先天の精」という生まれたときに親から受け継いだエネルギーの元と、「後天の精」という食べ物や健やかな呼吸で得られた気から作られたものを蓄えているとされています。

この腎が失調し腎気が減ってしまうと、肝や東洋医学的には消化器ととらえられている脾胃を養うことができなくなります。
すると、気や血を十分に送ることができなくなり、「瘀血(おけつ)」や「気滞(きたい)」といった血や気が滞ることによって椎間板ヘルニアの症状がでるのです。

ペットの椎間板ヘルニアでの鍼灸治療

動物の椎間板ヘルニアの鍼灸治療では、鍼による刺激で気血の流れを促進し滞りを改善することを目的とします。

まず、病変部の張りなどを確認し、脈や舌を診る東洋医学的な診察「四診」を行ってから鍼を刺していきます。
その他にも先ほどお話した「腎虚」や様々な邪気に対応するツボに鍼を刺すのですが、ペットの元々の体質やその日の体調で鍼を刺す場所は変化します。
大まかには決まっているのですが、その都度変化するのが東洋医学の特徴でもある「オーダーメイド治療」と言えるでしょう

また、この疾患に用いる代表的な治療法として「電鍼」という背中や足に刺した鍼にクリップをつけ通電する方法があります。
通電することによってより強く気血の流れを促進するだけではなく、電気の刺激を変化させることで、麻痺と痛みの両方の症状を緩和させる効果も期待できるのです。

「通電」と聞くと、テレビ番組の罰ゲームなどで数人が手をつないでいるところをビリビリと電気が走り痛がっている……というイメージを持つ人もいるでしょう。
しかし、電鍼ではそこまで強く通電しませんので安心してくださいね。

症状や獣医師によっては、通電をせずに鍼を直接指で弾いたり細かく揺らしたりすることで刺激を加えることもあります。

ペットへの鍼灸治療の頻度や値段

ペットの鍼灸での施術時間は、症状や動物の性格にもよりますが、ほとんどの場合が20〜40分ほどです。

施術している間、ペットが起立できる場合はそのままの姿勢で施術することが一般的です。
起立できない場合には、枠に網のようなものを張ったところに四肢を入れて体が空中を浮いているような状態をつくったり、クッションやタオルをお腹の下に入れて身体を支えたりなどの工夫をして姿勢を保ちます。

施術中は飼い主さんに傍にいてもらう場合もあれば、待合室でお待ちいただいたり、一定の時間お預かりしたりすることもあります。
病院によって異なりますので、不安な場合は事前に確認してみるのが良いでしょう。

通院回数は、毎日来ていただく場合もあれば週1回の場合もあり、症状などによっても異なります。
一般的には、最初は間隔を詰めて来院していただき、歩行改善や痛み軽減など症状がよくなってきてから間隔を空けていきます。
また、症状が改善した後も「養生(ようじょう)」といって気血のバランスの良い体を維持するために、定期的に鍼灸治療を行うと再発の予防が期待できますよ。

値段は、時間や鍼の本数などによるので一概には言えませんが、1回の施術で3000〜10000円くらいが相場です。
症状が出ているときにはペット保険の対象となりますが、一部の保険では対象外となる場合もあります。
治療を受ける前に、加入しているペット保険が対象かどうかを確認してくださいね。

鍼灸治療の効果について

鍼灸治療を行う際には漢方薬を併用することがあります。
これは鍼灸治療の効果をさらに高めるためですが、もし投薬に不安があれば担当の獣医師に相談されるのが良いかと思います。

鍼灸治療は万能ではありません。
手術をしたが麻痺が残っている、神経のダメージが重篤、発症してから時間が経っているときなどは効果が出にくいこともあります。
椎間板ヘルニア発症後はなるべく早いうちに鍼灸治療を始めた方が治癒率は高くなり、症状の緩和が望めます
諦めてしまう前に一度、鍼灸治療のできる獣医師にご相談されてみてはいかがでしょうか。

次回も具体的な疾患を例に挙げて鍼灸治療について解説していきます。

<校正・編集> アニてぃくる編集部・松永由美