【獣医師執筆】野良猫を保護したら必ずしておきたい病気の検査・予防
近年では猫の飼育頭数は上昇傾向にあり、野良猫などを保護して猫を飼育し始める方も増えています。
しかし、初めて猫を飼い始める方などはまずどのようなことを猫にしてあげればいいのかわからず、迷ってしまうこともあるかもしれません。
そこで今回は、獣医学の観点から猫を保護したら必ずしておきたい重要な病気の予防・検査などについてご紹介します。
ノミ・ダニ・お腹の寄生虫が引き起こす病気と検査費用
野良猫を保護した場合、ノミやダニなどの外部寄生虫や条虫、回虫などのお腹の寄生虫の寄生を受けていることがあります。これらの寄生虫は猫の健康を害するだけでなく、私たち人間にも寄生して病気を引き起こしてしまうこともあります。そのため、猫を保護したらまずは動物病院で寄生虫の駆除・予防をするといいでしょう。下記では代表的な寄生虫とそれにより引き起こされる病気を説明します。
ノミ・ダニによって引き起こされる病気
ノミ・ダニによって引き起こされる病気には下記のようなものがあります。
・貧血
ノミやダニなどの吸血性の寄生虫に大量に寄生されると吸血により貧血を起こしてしまうことがあります。貧血を起こすと口や目の粘膜が白っぽくなり、ぐったりして食欲や元気がなくなることや意識障害を起こしてしまうことがあります。
・ノミアレルギー性皮膚炎
ノミアレルギー性皮膚炎はノミの唾液に対するアレルギー反応で引き起こされる皮膚炎です。発症すると皮膚の痒みや赤み、脱毛などを引き起こします。
・瓜実条虫症
瓜実条虫はノミが媒介するお腹の寄生虫で、猫がノミを食べてしまうことで感染し、瓜実条虫症を引き起こします。感染しても無症状のこともありますが、下痢や嘔吐を引き起こすこともあります。この病気は人間も発症することもあるため注意が必要です。誤ってノミが口に入らないようにするために、猫を触った後にはよく手を洗うことやノミを見つけても指で潰さないようにすることを心がけましょう。
・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
SFTSはマダニにより媒介されるウイルス感染症で、特に注意が必要な病気です。ウイルスをもっているマダニに咬まれることで感染し、猫だけでなく犬や人間も発症することがあります。国立感染症研究所の報告によると、これまでの日本国内での患者数は2021年7月28日現在641人で、年間40〜102人の感染者が確認されています。猫と人間どちらの致死率も高いため、注意が必要です。症状は発熱や下痢などの消化器症状が多く見られます。
・ライム病
ライム病はマダニによって媒介される病気で、猫にも人間にも感染します。発症すると食欲不振や関節炎、痙攣などが引き起こされることがあります。
ノミやダニには駆除薬が存在するため、簡単に駆除や予防が可能です。1ヶ月に1回、猫の首のあたりに塗布するタイプの薬があるため、自宅でも気軽に予防できます。獣医師に相談して処方してもらいましょう。費用は病院や猫の体重にもよりますが、1ヶ月あたり1500〜2000円程度です。ノミ・ダニの駆除は上記で挙げた病気の予防にも有効であるため、猫だけでなく私たち人間の健康を守るためにも必ず予防をしてあげましょう。
よく見るお腹の寄生虫
外で生活している猫は母猫や他の猫、土壌、小動物、昆虫などからお腹の寄生虫が移ってしまっていることが多くあります。そのままにしておくと、消化器症状や発育不良などを起こしてしまうことがあるため注意が必要です。
・瓜実条虫
上記で紹介した瓜実条虫も、かなり頻度の多い寄生虫の1つです。ノミの予防を徹底しましょう。
・猫回虫
猫回虫は母猫のミルクを介しての感染や土壌中の卵の摂取による感染、昆虫やネズミを介しての感染が考えられる寄生虫です。猫が感染すると下痢や嘔吐などの原因となります。この寄生虫は人間の幼児が感染すると、トキソカラ症という病気を発症し、肺炎や視力低下などを引き起こしてしまうこともあります。
・マンソン裂頭条虫
マンソン裂頭条虫は猫がカエルやヘビなどを食べることで感染する寄生虫です。感染すると下痢や血便の原因になることがあります。まれに猫のお尻からきし麺のような見た目の虫が出てきて感染が発覚することもあります。
お腹の寄生虫を見つけるためには、糞便検査が大切です。そのため猫を保護して動物病院を受診する際には、新鮮なうんちを持参するといいでしょう。検査費用は500円〜1000円程度です。検査で感染がわかれば、寄生虫の種類に合わせた駆虫薬で治療が可能です。駆虫の費用は1500円〜8000円程度かかります。
猫エイズ・猫白血病の感染経路やウイルス検査費用
野良猫は猫エイズウイルスや猫白血病ウイルスを持っていることがあります。猫を保護したらこれらのウイルスの検査を行い、発症予防や他の猫への感染対策をしておくことをおすすめします。
猫エイズ・猫白血病とは
・猫エイズ
猫エイズウイルスは猫同士のケンカによる咬み傷などから感染します。そのため、外で生活している猫で感染が多いと言われています。発症すると貧血や発熱、下痢、免疫力の低下などが起こり、数ヶ月で死んでしまうこともあります。潜伏期間は5年程度と長く、中には感染しても発症しないで天寿を全うする猫もいます。ストレスを極力与えない生活を心がけることで発症のリスクを下げることができるため、感染の有無を知っておくことはとても大切です。感染が判明している場合は他の猫への感染予防のために隔離が必要です。
・猫白血病
猫白血病ウイルスは猫同士のケンカだけでなく、エサ皿などに付着した唾液を介しても感染することがあります。発症すると免疫不全状態に陥り、発熱や貧血、リンパ腫、リンパ腫などを起こし、数ヶ月以内に死んでしまいます。猫エイズと同様に、感染が判明している場合は隔離が必要です。
ウイルス検査はタイミングが大切
検査は血液を少量採取し、専用の検査キットを使って行います。検査結果は10分程度でわかるため、その日のうちに結果を知ることができます。費用は4000円〜5000円程度です。
検査は他の猫との接触がない状態で2ヶ月経過後に実施することが理想的です。ウイルスに感染してから検査結果で陽性反応が出るまでにタイムラグがあるためです。また、生後6ヶ月未満の子猫では猫エイズで陽性反応が出ても1歳前後で再検査することをおすすめします。これは、親からもらった抗体によって感染していなくても陽性反応が出てしまうことがあるためです。
猫エイズ・猫白血病は予防できる
これらのウイルス病は一度かかってしまうと根治は望めないため、予防が何よりも大切です。予防には、室内飼育を徹底し、他の猫との接触を防ぐことが最も有効です。ワクチンもあるため、検査で陰性だった場合は万が一に備えて接種しておくことをおすすめします。また、保護した猫がウイルスを持っていた場合でも他の猫に移してしまうことを防ぐために、同居猫と接触させたり、外に出したりなどはしないようにしたほうがいいでしょう。
まとめ ー 寄生虫やウイルスの病気は早期発見・早期治療が大切!
猫を保護したら、ノミやダニなどの外部寄生虫、回虫などのお腹の寄生虫、猫エイズ・猫白血病のウイルスの予防や検査をしておくことをおすすめします。
これらの寄生虫・ウイルスはいずれも予防薬やワクチンが存在するため、獣医師に相談してみましょう。
また、初めて動物病院を受診するときには新鮮なうんちを持参すると寄生虫の検査も行ってもらえます。
いずれの寄生虫・ウイルスも放っておくと猫の健康に悪影響を与えてしまうため、早期発見・早期治療が大切です。