【獣医師取材】動物と飼い主さんに寄り添った獣医療を|田村裕美先生

目次
動物と飼い主さん双方の応援団でありたい


田村 裕美 わたりだ動物病院 副院長
<経歴>
1981年3月 北里大学獣医学科 卒業
1981年〜1982年 おくだ動物病院 勤務医
1982年10月 わたりだ動物病院 開院
2019年 フォレストドッグケアセンター 設立
<資格>
メディカルアロマスペシャリスト
中医漢方獣医師
ペット中医学アドバイザー
野菜ソムリエ
ベジフルビューティーアドバイザー
何種類もの動物たちのお世話をしながら、神奈川県川崎市で「わたりだ動物病院」の副院長を勤める田村裕美獣医師。中医学やメディカルアロマも交えながらエキゾチックアニマルの診療を行っている田村先生に、動物への想いや飼い主さんとの向き合い方について詳しくお聞きしました。
動物に囲まれて過ごしてきた幼少期

ーーー 田村先生が獣医師を志すきっかけを教えてください。
昔から動物をたくさん育てていて、母のお腹にいた時から今まで動物と離れて生活したことがないんですよね。
父の会社に勤めていた職人さんが、当時小学生の私のためにカマキリやらヘビやら色んな生き物を仕事現場から持ってきてくれるのが嬉しくて、一生懸命育てていました。
当時は飼育本もないしインターネットも普及していなかったので、動物について分からないことがあったときは近所のペットショップのおじちゃんに聞いたり、生意気ながら上野動物園に電話をかけて飼育員さんに教えてもらったりしていました(笑)
当時は女性獣医師がとても少なく、両親からは「女性は獣医師になれないんだよ」と言われていたんですが、高校に上がるタイミングで、近所にいた女性の獣医さんと出会い、自分も獣医師になりたいと強く思うようになりました。
また、小さい頃から犬猫はもちろん、ウサギやハムスター、モルモット、マウス、爬虫類、両生類、小鳥などさまざまな種類の動物を育てていたので、自然とエキゾチックの診療に興味を持つようになりました。
ーーー田村先生は今、50匹の動物たちと一緒に住まわれているとか。
はい。色んなところからもらってきてしまうんです(笑)
両目が見えないモルモットや、片足がないハムスター、尻尾が切れているマウスなど、ペットショップで売れない子を引き取ることもあります。
現在は犬や猫、そしてウサギ、ハムスター、モルモット、デグー、小鳥、ハリネズミ、トゲマウス、ステップレミングや、カメ、金魚、メダカ、ベタなどの魚も育てています。
動物のお世話をすることが大好きなので、お世話が大変だと思ったことは一度もないんです。
みんな私の子供たちで、すごく可愛いんですよ。
ーーーその中でも特に思い出深いエピソードはありますか?
もう亡くなってしまったのですが、「小鈴」という小鳥を保護してお世話をしていました。
初診で来院した小鳥は、初めはみんなすごく緊張してるんですね。そんな時、小鈴にアイコンタクトをすると優しい声で鳴いてくれるのです。
そうすると、他の小鳥たちも一緒に鳴き始めて、鳥が鳴いている環境って鳥にとっては安全地帯なので、初めは緊張していた初診の鳥さんも徐々にリラックスしてくれるんですよ。これにはとても助けられました。
最終的には腫瘍で亡くなってしまいましたが、同種の長寿記録を持つほど長生きしてくれました。漢方薬を中心とした治療をして、病気が見つかってから2年も生きてくれたんです。動物の生命力には本当にびっくりします。
もう動物には教わることしかないですね。
「治療の範囲を広げたい」と様々な資格を取得

ーーー 田村先生は、なぜペット中医学アドバイザーの資格を取ろうと思ったんですか?
単純に、治療の選択肢は多い方が良いと思ったんです。
西洋医学は今後も絶対に必要ですけど、やっぱり薬には副作用がありますよね。
しかも、小さな動物にとっては検査自体が負担になってしまうことも多いんです。
その点、中医学は見たり聞いたり触ったりして、その子の今の状態を診断することができます。
体に優しく即効性がある治療法なんです。
中医学は特に、難治性疾患や老齢性の疾患におすすめしたいと思っています。
最近も膀胱結石のモルモットに使ってみたところ、綺麗に石がなくなったんですよ。あの時はとても嬉しかったですね。
たとえ根治が難しい病気でも、中医学を組み合わせた中西結合医療によって、苦しまずに最期まで穏やかな時間を過ごすことだってできるんです。
ーーー メディカルアロマと漢方が組み合わさった塗る漢方があるんですね。
はい。口の中に腫瘍ができてしまった場合など、薬がなかなか飲めない時ってありますよね。
塗る漢方は、耳や足の裏にマッサージするように塗るだけで効果が期待できるんです。
寝たきりになってしまった子に対しても、飼い主さんの手で確かな治療をしてあげられるので喜ばれています。
動物の負担も少ないですし、本当に治療の幅が広がりました。
今は飼い主さんの同意のもとで、エキゾチックアニマルには中西結合医療をほぼ100%行っています。
ーーー 野菜ソムリエやベジフルビューティーアドバイザーの資格を取られた理由を教えてください。
私たちや動物の体は食べたものでできていますよね?
”食べること”って、すごく大切だと思っているんです。特に小さな動物は代謝が活発なので、食べ物を変えるだけで数日で毛質から何から変わるんですよ。
例えばうさぎは「水を飲ませてはいけない」「寂しいと死ぬ」から始まり、最近は「硬いものをかじらせないと歯が伸びてしまう」「野菜を食べると下痢をする」など間違った情報があふれています。
正しい「食育」を飼い主さんにお伝えする時に、色々な資格があった方がより納得いただけるかなと思ったんですよね。
高齢者と保護された動物たちが出会える場所を作りたい

ーーー 千葉県に「フォレストドッグケアセンター」を建てられたんですか?
はい。フォレストドッグケアセンターは、院長の田村通夫が中心となって運営している老犬ホームです。動物の病気の治療からデイリーケア、終末医療による安らかな看取りまで幅広く対応しております。
病院に通って下さっている方の中には、「この子が飼う最後のペットになるわ」と寂しそうに話される高齢の方もいます。
長いこと仕事していると色んな相談を受けるのですが、中には急遽老人ホームに入らなくてはならなくなり、代わりの里親を探してほしいとお願いされたこともたくさんあります。
いつ・どんな時に動物のお世話ができなくなる事態が起こるか、誰にも分かりません。
「飼えなくなってしまったらどうしよう」と不安な思いをする飼い主さんや行き場を失う動物が増えてしまわないように、飼い主さんと動物がいつまでも安心して暮らせる環境を作りたいという想いで、この施設を作りました。
ーーー フォレストドッグケアセンターのこだわりは何ですか?
一番のこだわりは「獣医師が常勤していること」ですね。
日本には色んな老犬ホームがありますが、獣医師がその場に住んでいるところはすごく少ないんです。
動物は高齢になるほど治療が必要になってきますが、一般的な老犬ホームでは、十分な獣医療が提供できていないことが多く、その点についてよく飼い主さんから相談を受けていました。
フォレストドッグケアセンターでは、獣医師が常勤していて検査・治療もできますし、何かあった時にすぐ対応することができます。有資格者による中医学、メディカルアロマによる治療をすることもできますので、ご希望があればおっしゃってください。
他にも、お世話の記録を残した「ケアノート」を利用者様にお渡ししていたりと、色んな工夫をしているので、ご興味のある方はぜひご連絡ください。
フォレストドッグケアセンター:https://forest-dog.com/
ーーー 今後のペット業界の発展に田村先生が寄与していきたいと思うことはありますか?
人は年を重ねるにつれて、動物との関わりがより大切になってくると思います。
生活サイクルも規則正しくなるし、何より動物の温もりを感じ、気持ちが軽くなったりする。痴呆症の予防にもなりますよね。
しかし、高齢者の方が新しく子犬子猫を迎えるには年齢的にも躊躇してしまいますし、保護犬の里親になりたいと思っても、還暦近い年齢になってくると年齢制限に引っかかってしまうんです。
今後、フォレストドッグケアセンターでは高齢者の方と保護された動物たちとを結びつけてあげられるようなボランティア活動ができたらいいなと思っています。今後は犬だけではなく、他の動物にも力を入れていきたいですね。
動物と飼い主さんの両方を支える医療を届けたい

ーーー 田村先生は「どのような獣医師でありたい」とお考えですか?
私は、「飼い主さんと動物の双方の応援団」でありたいと思っています。
飼い主さんの話をしっかり聞いた上で、動物にも飼い主さんにとっても何が一番いいのかを考えて方向性を決めていくようにしています。
うちは予約制を取っていて、一人の患者さんにしっかり時間を取って話を聞くことができますし、休みの日でもメール相談や留守番電話での対応をしていることもあります。
私自身もこれまでたくさんの動物とのお別れを経験してきて、本心ではお別れを受け入れきれていない動物もいます。
飼い主さんの気持ちが分かるからこそ、少しでも支えになれたらいいなと思い、日々の治療やコミュニケーションを行っています。
ーーー 獣医療で重要だと感じていることはありますか?
「予防」がとても大切だと感じています。
食べ物や環境を正しく整えてあげるだけで病気は減らせますし、同じ病気だとしても、”単なる治療”だけした場合と動物の衣食住からサポートした場合とでは全くこの先の可能性が変わってきます。
あと、ショップや本やインターネットで飼育方法を勉強するのももちろん良いと思うんですが、獣医師にも一度は聞いて欲しいなって思います。
「知らなかった」とか「やってみたらすごく元気になった」と言っていただけることが結構多いんです。
動物を飼い始めたらまず健康診断で病院に来ていただいて、そのときに飼育環境やご飯についても優しくレクチャーしています。その後は定期的に爪切りなどで来院していただくと、それが病気の早期発見につながることも多いのでおすすめです。
ーーー これから来院される患者さんに一言お願いします。
たとえ難治性疾患で完治が難しくても、高齢だとしても、「手の施しようがない」とは思いません。
中医学、メディカルアロマ、サプリ、マッサージなどで、動物の苦痛を取り除いてあげたり、生きる力を支えてあげるような治療ってとても重要です。
飼い主さんと動物が穏やかな時間を少しでも長く過ごせるように、提案できることはたくさんあります。
気軽に何でも相談してくださいね。