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【獣医師取材】外科医たるもの手術に対して臆病であれ|新井庸之先生

最良のホームドクターを目指して

新井 庸之 川瀬獣医科病院 院長

<経歴>
1991年  日本大学農獣医学部卒業
1993年~ 川瀬獣医科病院勤務
2000年 カリフォルニア大学デイビス校に滞在・整形外科にて研修
2001年~ チューリッヒ大学にて整形外科セミナー・実習を受講
2001年 川瀬獣医科病院 副院長に就任
2011年〜現在 川瀬獣医科病院 院長              

整形外科において専門的な治療を行なっている新井庸之医師。得意な専門分野を持ちつつも「地域の皆様にとって最良のホームドクターでありたい」と“1.5次診療”のスタイルを貫く新井先生に動物や飼い主との向き合い方、心がけていることについてお聞きしました。

動物のスペシャリストになりたかった幼少期

ーーー 新井先生が獣医師を目指したきっかけについて教えてください。

ありきたりかもしれませんが、子どもの頃から動物が好きだったんです。獣医師という職業を知る前の小さな頃からずっと「大人になったら何か動物のスペシャリストになりたい」と考えていましたね。

「動物のスペシャリスト」という広い括りから「獣医師」に目的を絞って目指すようになったのは高校生の時です。獣医師は現実的にもチャンスがある職種かなと考えるようになって、獣医学部がある大学に進学しました。

大学に入学した時点では「これがやりたい」という具体的な目標はなかったのですが、さまざまな経験や考えを辿っていって「小動物の臨床」という現在に通じる道を見つけたんです。

ーーー 獣医師免許を取得後はどのように経験を積まれたのですか?

最初のうちは、知り合いの先生の勧めで茨城の動物病院に勤務していました。大学で寄生虫の研究室にいたこともあって、地方に行った方がさまざまな伝染病や寄生虫の症例を診ることができるかなと思っていたんです。

その茨城の病院は市内に1件しかないような、イメージ通りの「田舎の動物病院」という感じでしたね。
院長先生が別の仕事で不在にしていることが多く、1年目の頃からすでに先輩獣医師も休みのときは私1人で診療にあたっていたこともありました。

都会の病院のように次から次へと患者さんが来るわけではありませんでしたが、1人で何もかもやらなくてはいけないので忙しかったですね。
でも、この頃の経験があったからこそ鍛えられて「今」があるのだと感じています。

整形外科の技術を高めるためにアメリカへ

ーーー 茨城での勤務を終えて次に勤めたのが現在院長を務めている川瀬獣医科病院なのですね。

はい。茨城の病院に勤めている時に、レジャーで茨城に来ていた川瀬獣医科病院の先代院長・川瀬清先生にお会いしたんです。
茨城の先生と川瀬先生は知り合いで、不思議な縁ですが私の実家も川瀬獣医科病院のすぐ近くだったんですよ。

実は、私が獣医師になってすぐに父が亡くなったこともあって、地元に戻ろうかなと考えていたんですよね。
そんな時にたまたま川瀬先生から「東京に来るならうちにおいでよ」と声をかけていただいて、地元に戻って川瀬獣医科病院に勤めることに決めました。

ーーー 新井先生が整形外科を専門分野として始めたきっかけは何ですか?

さまざまな分野の医療を川瀬獣医科病院で受け持っていた中で、整形部門を私が引き継ぐことになったのがきっかけですね。それで、先代から「アメリカに行かせてやるから整形外科の勉強をしてこい」と送り出されたんです。

アメリカではカリフォルニア大学のデイビス校に通って、整形外科の現場を見学したり手術の助手をさせてもらったりしました。
今では日本もだいぶ追いついたとは思いますが、当時は整形外科でも他の分野でもアメリカの技術の高さに驚きましたね。

その後もチューリッヒ大学の整形外科のセミナーに定期的に参加して、当時は日本では見慣れなかった、セメントを使わない人工股関節を用いた手術や治療を学びました。

より慎重になる“臆病さ”が獣医師には大切

ーーー 先生が普段、患者さんと関わる中で嬉しく思うのはどんな時ですか?

整形外科の手術後に「先生のおかげでちゃんと歩けるようになりました」というお言葉をよく頂戴します。それは本当に嬉しいことです。ただ、治すためにやっているわけなので「それは当然のこと」と冷静に考えてしまうこともありますね。

飼い主さんだって「治してもらえる」と思うから私たちの元へ来てくださるわけですし「治さなければいけない」というプレッシャーは常にあります。なので、治療した子たちが歩けるようになった時は「治って嬉しい」という気持ちよりも「ああ、よかった」というプレッシャーから解放された安堵感の方が強いかもしれません。

ーーー 先生にとって「獣医師」とは?

若い頃ならば「動物の唯一の代弁者」と言っていたかもしれませんが、30年もやっていると「おこがましい」なんて思えてきてしまうんですよね。というのも、自分はプレッシャーに弱い人間で臆病者でもあるので。

ただ、この“臆病さ”が獣医療や整形外科には大切だとも思っています。臆病であるから手術中はもちろんのこと、手術をするか否かの選択にも慎重になっていて、「動物の体力を考えずに無茶をしてミスをする」なんてことも避けられると考えているんです。臆病と言っても、『消極的』という意味ではありません。

それなので難しいですが「獣医師とは?」と聞かれると「手術に対しては臆病であるべき存在である」とは思います。臆病なあまり、精神的にこたえてしまうこともしばしばですが……(笑)。

方針を押し付けるのではなく治療にも選択肢を

ーーー 動物医療で時々耳にする「1.5次診療」は新井先生が先駆者だったというのは本当ですか?

おそらくそうだと思います。フィラリアやノミダニの予防・避妊去勢手術などの予防医療・健康診断などの「1次診療」と、専門的な技術を持って高度な医療を行う「2次診療」を組み合わせた「1.5次診療」は最近では当たり前になりつつありますよね。
でも、世の中にその言葉がなかった頃から私は進んで「1.5次診療」を行っていましたし、そう呼んでいました。

しかし、自分の得意分野だからといって健康診断など1次を目的に来院した患者さんに、2次である整形外科での受診を強引に勧めることは絶対にしないようにしています。
ホームドクターとして来院されたのか、紹介などで整形外科目的に来院されているのかというところで対応を変えながら治療方針を決めています。

ーーー 新井先生が川瀬獣医科病院の院長として徹底している考えなどはありますか?

治療法をこちらから飼い主さんに押し付けるのではなく、飼い主さんと相談しながら選んでもらうということは心がけています。
「治療する」と言っても手術が全てではなくて、手術をしない対処療法を選択したり強い薬を使ってみたり、さまざまな道がありますからね。

「この病気にはこれをああしてこうして」と教科書通りに治療を進めていくと飼い主さんはついてこられないんです。まず大切なのは、患者さんが何を望んでいるのかということ。
うちでは飼い主さんが望む治療に対して、技術や設備が足りないと思えば専門の先生や大学病院を勧めるなどの対応をとっています。
飼い主さんやペットの気持ちを汲み取りながら話し合い、一緒に治療法を決めていくというのは私も心がけていますし、後輩の獣医師たちにもそうしてほしいと伝えています。

ーーー これから来院される方に一言お願いします。

現在は新型コロナ感染症の影響で予約制という形をとっています。予約をした上で来院していただきたいというのと、動物の病状をよく把握した上でお連れいただきたいと思っています。
動物は言葉を喋れないので飼い主さんから情報を聞くほかありません。「いつ頃から症状があるのか」などの情報がわかっていると、治療もスムーズに進められます。
日頃からペットをよく観察して連れてきていただけるとありがたいです。

新井庸之先生も登録している「アニぴたる」って?

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