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【獣医師取材】飼い主さんの納得感を大切にした腫瘍治療|吉川文貴先生

専門的な腫瘍診療と丁寧なコミュニケーションを合わせる

吉川 文貴ぶんペットクリニック 院長

<経歴>
  2017年 岐阜大学応用生物科学部獣医学課程卒業
  2017年〜2022年 あいち犬猫医療センター 一般外来および腫瘍科勤務
  2022年〜2023年 名古屋スクールオブビジネス講師
  2023年 ぶんペットクリニック開院
             

愛知県岡崎市にて「ぶんペットクリニック」の院長を務める吉川文貴獣医師。専門的な腫瘍診療を得意としている吉川先生に、治療や飼い主さんとのコミュニケーションで大切にしていることをうかがいました。

愛犬を救ってくれた動物医療の力に感動した

ーー吉川先生が獣医師を目指したきっかけを教えてください。

幼少期から実家で飼っていた柴犬が病気になったときに、手術で助けていただいたことが影響しています。手術の成功率は5割ほどだったのですが、無事に成功しました。そのときに動物の命を救う医療の力に感動した記憶があります。

術後も1〜2年くらいしか生きられないと言われていましたが、最終的には18歳まで生きてくれましたね。

もともと医療には興味があり、動物も好きだったことから獣医学部に進学しました。進学した大学で腫瘍科の研究が盛んだったのと、動物の最期に関わる終末期医療に関心を持っていたので、自然な流れで腫瘍を中心に学ぶことになりましたね。

ーー卒業後はすぐに腫瘍専門で診療を始めたんでしょうか?

大学卒業後は一般外来の医師からスタートしました。腫瘍のことを学んでいたとは言え、まずはワクチン接種や初期対応などの一次診療ができた上で、専門領域の二次診療に進むべきだと考えていたんです。そのため、一次診療と二次診療の両方の経験が積める病院に就職を決めました。

そして3年目くらいから腫瘍科の医師として、先輩に教えていただきながら治療にあたっていました。知識を身につけていても、実際の現場でやるのはまた別物だったので、空回りしないようにイチから学び直すような感じでしたね。

最初に勤めた病院は、他院では対応が難しい症例や、緊急対応が必要な症例などを幅広く受け入れていたので、とにかくたくさんの症例を診ていました。がむしゃらに働いた5年間でしたが、この経験があったからこそ、獣医師としての全体的なスキルが底上げされたと思っています。

飼い主さんの気持ちに寄り添う腫瘍診療を

ーー吉川先生が腫瘍の治療を進めるうえで意識していることはありますか?

腫瘍診療をしていると、ペットの生死に直面する瞬間がたくさんあります。命懸けの手術になることもあるし、どうしても予後がある程度決まっている子もいます。つい、自分が行う医療行為のことばかり考えてしまいがちですけれども、飼い主さんの気持ちに寄り添うことが大事ですね。

ーー大切なことですが、なかなか難しいですよね。

ガンは命に関わる病気ですから、ときには看取る話をしないといけません。どんな言葉をかければ飼い主さんの救いになるのか、飼い主さんはどう感じていて、どんな言葉を聞きたいのかを常に考えています。

勤務医時代には先輩獣医師が飼い主さんと話す様子を聞かせてもらったり、グリーフケア(※)の本を読んだりもしました。そして自分でも飼い主さんの気持ちを考え続けて、少しずつできるようになってきたと思います。

※グリーフケア:ペットを失った際に、飼い主や関係者が感じる喪失感や悲しみに対する心の支援のこと

ーー飼い主さんと話しながら治療を進めるのは最初からうまくできましたか?

腫瘍の話に関わらず、最初はどうやって飼い主さんとコミュニケーションをとったらいいか分かりませんでした。

自分の頭にある治療方針やペットの状態を噛み砕いて説明できなかったし、飼い主さんの気持ちに寄り添って話すことが苦手でしたね。うまく伝えられるようになるまで2〜3年かかりました。

ですが、5年目には新人獣医師の教育担当になったり、動物看護師を目指す学生の講義を担当させていただいたりと、「教える・伝える」ことも得意だと感じるようになりました。

スタッフ全員が質の高い医療を提供する

ーー開院された「ぶんペットクリニック」で力を入れていることはありますか?

動物看護師さんも含めて、飼い主さんと「医療的なコミュニケーション」をしっかり取れるように力を入れています。

適切な問診が取れたり、飼い主さんに医療的な話を伝えたりできるように、院内で勉強会を実施しています。最近では看護師さんが受講できる外部のセミナーなども増えました。僕が確認テストを作って受けてもらうこともありますよ。

ーー熱心…!講師の経験が活きているんですね。

そうかもしれません(笑)動物看護師の免許が国家資格になったこともあり、より活躍してほしいという想いもありますね。

例えば一言で下痢といっても、どういったタイプの下痢なのかを見分けられるといいですよね。お腹の問題に見えて別の病気が隠れている可能性もあるし、緊急性もそれぞれ違います。

院内のスタッフが一定の高いレベルの知識を持ち、ただ親身に話を聞くだけでなく、プロとして医療的なコミュニケーションが取れるように取り組んでいます。

ーー飼い主さんに、医療的な話を分かりやすく伝えるための工夫はありますか?

飼い主さんが目で見て分かりやすいように、イラスト付きの説明資料を用意し「見える化」しています。絵を描くことが好きなので、自作しているんですよ。ワクチンスケジュール、アレルギー説明、フィラリア予防に関する資料など、多くの飼い主さんに共通してお渡しするものは大体作りました。

絵を描くことが好きな吉川先生の自作資料

当院はペットショップに併設されているので、ペットを初めて飼う方も多く来院されます。そういった飼い主さんにも、ペットを飼う上で必要な知識を分かりやすく伝えるように意識していますね。初めてのワクチン接種時には、しつけの必要性も時間をとって説明しています。

ーーぶんペットクリニックは、パピーのしつけ教室も開いているとか。珍しいですよね。

きちんとしつけて、子犬のうちから社会性を身につけさせるのは、「心のワクチン」だという考え方もあるくらいです。私もペットの一生を考えたときに、体のワクチンと同じくらい重要だと思っています。

体のワクチンを打って「はい、さようなら」では、問題行動が起きてから困ってしまいます。

私も始めからしつけ教室の開催を考えていた訳ではないんですよ。医療の範囲は広いので、しつけまで手が回らない病院がほとんどだと思います。偶然しつけ指導ができるスタッフが仲間になってくれたこともあり、動物が人間社会で楽しく過ごすためのお手伝いができたらいいなと思い実施しています。

ペットの最期まで飼い主さんの力になりたい

ーーぶんペットクリニックではどのように治療方針を決めていますか?

腫瘍の手術となると、麻酔や治療費の心配などで飼い主さんも不安になりやすいですし、僕の意見をゴリ押しするのではなく、飼い主さんと相談しながら治療を進めるようにしています。

もちろん、治療できる可能性があれば自信を持ってお伝えします。検査や手術を行う場合、行わない場合で考えられる、それぞれのメリットやデメリットを伝えた上で、飼い主さんに納得して選択していただきたいです。

一番いけないのは、飼い主さんが納得していない状態で治療に踏み切り、「こんなはずじゃなかった」と感じてしまうこと。「いろんな考え方や治療法があります。その中でどれを選びますか?」と問いかけてコミュニケーションをとるように意識しています。

どのような選択であっても、飼い主さんがペットを想って悩んだ出した答えは正しいと思うので、選択した範囲の中で最大限できることをして力になれたら嬉しいです。

ーーこれから来院される飼い主さんに伝えたいことはありますか?

愛犬・愛猫の体調が悪いのに、他院でハッキリとした診断がつかず困っている飼い主さん、治療について悩んでいる飼い主さんがいましたら、ぜひ来院していただきたいです。

「先生に診てもらえてよかった」と言われることが何よりの生きがいです。飼い主さんと相談しながら、最大限の治療をしますので一緒にがんばっていきましょう。

インタビュアー:株式会社アニぴたる 代表取締役 隅蔵 亮

吉川 文貴先生も登録している「アニぴたる」って?

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