【獣医師取材】救急医療と24時間体制で、大きな信用を|杉浦洋明先生
目次
地域の動物病院と密に連携する理想的な救急病院にしていきたい
杉浦洋明横浜動物救急診療センター VECCS横浜(ベックス横浜)院長
<経歴>
2006年 東京農工大学獣医学部卒
2006年 浜松市の動物病院で6年間勤務
2012年 横浜市内の夜間救急病院で10年間勤務
2022年 6月に横浜動物救急診療センターを開院し院長に就任
横浜市の中区・南区・西区にまたがるエリアにあり、遠くは都内や千葉、小田原、横須賀、藤沢、鎌倉からも患者が駆けつけるという横浜動物救急診療センター VECCS横浜(ベックス横浜)の杉浦洋明院長。「救急に加えて、24時間体制だからこそ集中治療ができます」と胸を張ります。
獣医師は世の中に役に立ちそうな仕事のイメージがあった
ーーー杉浦先生はどうして獣医師になられたのですか。
自分は子供の頃から内気でおとなしい性格で、動物が好きだったので、中学生の頃には獣医師になることを決めていました。小学生の頃にはザリガニや金魚などの小動物を飼っていたし、獣医師は世の中に役に立ちそうな仕事というイメージがありました。
それで、実家から自転車で通える距離にあった東京農工大学獣医学部(平成24年度からは共同獣医学科)に入学。在学中は主に微生物を研究していましたが、獣医師には臨床が大切だと思い、卒業後は浜松市の動物病院に入りました。
ーーーそこから横浜市内の夜間救急病院に移られたんですね。
浜松市の動物病院は自分にとってとても良い病院でしたが、あるとき、救急の動物の異変に気がつけず、取り返しがつかないことになってしまったことがありました。次のステップを考えたとき、「救急獣医療ができないと恥ずかしい」という気持ちが芽生えて、横浜市内の夜間救急病院で10年間、そのうち7年ほどを現場責任者として従事しました。
勤務しているときに、夜間救急を担っている全国の先生たちと出会い、非常に刺激を受けました。「誰かがしっかり救急医療を支えていかないと」「救急の病院はなくしてはならない」という思いが強くなり、「救急で生きていく道はないか」といつの間にか考えるようになりました。
夜間救急のジレンマと、それを解決する道を模索する
ーーーそれで救急動物病院の開業に向かわれたのですか。
自分が開業する気は全くなかったです(笑)。獣医師は、昔は開業する人がほとんどでしたが、今は勤務医として生きることできるようになってきたし、勤務医の方が楽です。
ーーーでは、なぜ開業されたのですか。
今のペットはほぼかかりつけ医があって、救急といえば「夜間」が主流です。前職の夜間救急病院ではストレスなく働いていましたが、「夜間に治療して、そのまま経過観察までできたら、自分たちの治療が役に立っていることをもっと実感できるのに……」と思うことが度々ありました。
そう思っているうちに、「救急に加えて、24時間体制で集中治療を行う救急病院」が自分の理想だという結論に行き着きました。救急診療と24時間体制の二本柱なら、迅速な診療を求める飼い主さんにも、かかりつけ医にもより大きな信用を提供できて、自分もより納得できる治療ができるはずだと。
ーーー先生の中にあった「理想の救急動物病院像」を教えてください。
救急診療は、「必要だと誰もがわかっているのに、採算を取りづらい分野」という扱いを受けてきました。皆さんがテレビドラマなどで見るように、救急は少数の医師や看護師の熱い想いだけで成り立っているかのような誤解を生みやすいですが、それだけでは立ちゆかなくなるし、ビジネスとして成り立っていないと長続きはしません。
ーーー先生の中に具体的なイメージができつつあったと。
自分の理想を追い求めるために前職を退職し、同年秋に、今のテナント物件を紹介されて、場所や図面を見たときに、「自分が思い描く24時間救急病院を開くのにピッタリの物件だな」と思い、開業することを即決して、前のめりで開業に突き進みました。そして2022年6月に開業しました。
ーーー開業に対するプレッシャーはなかったですか。
プレッシャーしかありませんでした(笑)。でも、患者さんは思った以上にたくさん来てくれて、診療の結果を出すことで、不安は消えていきましたね。
地域の動物病院との連携があって成り立っている救急医療
ーーー救急動物病院を開業することで気をつけたことは何ですか。
<p>開業するときに周辺の動物病院を70軒ほど挨拶回りしました。周辺の動物病院には、ライバル病院ができたのではなく、「味方になる病院ができた」と捉えてほしかったので、積極的に回りましたね。開業の主旨や想いを説明することで、院内でパンフレットを配ってくれたり、患者を紹介してくれたり、地域の動物病院さんとはとても良い関係ができたと思います。</p>
ーーー今年6月に開業一周年を迎えられましたが、手応えはいかがですか
感触としては、地域で頼られている、役に立っていることを感じます。夜間診療では、異物を飲み込んだ、足を痛めた、発作を起こした、嘔吐、おなかが張ってきたなどが多く、命に直結する場合は、緊急手術もあります。24時間体制なので、手術後の経過観察もできて、私たちにとっては、夜間救急だけではわからない経験値が増えていく。救急と集中治療はウィンウィンになっています。
救急イコール高額請求というイメージについて
ーーーこれはぜひ伺いたいのですが、救急は費用が高いというイメージがあります。
当院ではまず電話で現状を把握します。来院されたら問診票に記入していただき、診察・検査をして、必ず丁寧に治療内容を説明します。状況によっては手術や入院を勧めます。必ずかかる診察料は10,000円で、その他に検査料や疾患別費用がかかります。
動物は家族の一員で、愛情を込めて飼っているならこんなに素晴らしいことはありません。ただ、動物を助ける治療費で、家族や生活が崩壊することになるのだとしたら、それは違います。
動物を大切にというのは当たり前ですが、飼主様の生活が安定しなければおかしなことになると考えています。動物を助けることで、家族が助かることが一番で、「動物の命のため」を強調しすぎないようにしていますね。
モットーは「断らないこと」
ーーー獣医師は先生にとって天職ですか。
動物と接していて、獣医師としての使命感、僕が生まれた意味という感覚はありますね。そういう感覚はすごく良いし、人間社会の役になっているに違いないと思うと、最後までやり抜くしかないと感じます。患者さんの費用と時間が大丈夫なら、「断らない、基本的には受け入れる」ことは続けていきます。
ーーー先生の今の夢を教えてください。
個人的には子供の小学校の卒業式には出たいなぁ(笑)。家族との時間があるといいなと思います。
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